緩和ケアを行う看護師に求められる能力

緩和ケアでは、治療ではなく患者が自分らしい最期を送れるようにすることが目的となります。
緩和ケアの病床では、主に治る見込みがないがん患者が多く、肉体的にも精神的にも抱えている苦痛ははかり知れません。
そして患者の家族の精神的負担も相当大きなものです。
人の感情が揺れ動く現場であるため、緩和ケアを行う看護師には非常に高いコミュニケーション能力が求められます。

では、コミュニケーション能力が高い人とは、一体どのような人を指すのでしょうか。
まず言えるのは、患者とその家族に寄り添い、思いやりを持って接することができる人です。
終末期を迎えた患者やその家族の不安は一層大きいものであり、恐怖や怒りの感情をぶつけられることもしばしばあります。
そういった場面でも、冷静な立場を守り、やさしく見守れる思いやりの心を持っている必要があります。
思いやりの心が強く、感情に流されずに気持ちの切り替えができる人は、非常にコミュニケーションが高い人と言えるでしょう。
気持ちの切り替えのスキルは、患者の死の場面に直面したときにも求められます。
人の死というものは、喪失感が大きく衝撃的なものです。
そんな場面に遭遇しても、医療従事者として取り乱すことは許されません。
ときには、ケアを担当するうちに患者と信頼関係が築かれて、相手に対する思い入れが強くなることもあります。
緩和ケアという現場であれば、先日まで元気に話をしていた相手が突然亡くなることも珍しくありません。
とはいえ、仲の良かった患者の死に直面してどんなにショックでも、残された患者の家族のケアに当たらなくてはならないのです。
緩和ケアは精神的負担が大きいこともあり、誰もができる仕事ではありません。
ただ、そんな状況で患者と築かれる絆は深く、人生経験として非常に貴重な知見を得られるのは間違いありません。

緩和ケア病棟での看護師の役割

緩和ケア病棟で働く看護師には様々な役割があります。
患者やその家族に対してのケアをはじめ、一般病棟と緩和ケア病棟間の移動に関わる引き継ぎや、チームとしてケアする際の中心的役割を担ったりと、多くの役割があります。
緩和ケアでは、痛みや苦しみを少しでも軽減し、患者や患者の家族の精神的ケアをメインに行います。
看護師の仕事は多岐に渡る一方で、痛みを軽減するためには鎮痛剤や麻酔薬などを用いて症状を抑えるなど、できる治療は限られています。
こういったことから、新しい医療知識や技術の習得を希望している看護師の場合、緩和ケア病棟で働くことに焦りを感じる者もいるようです。

緩和ケア病棟では、迫りくる死に恐怖を抱き、その不安から自暴自棄になる患者もいます。
不安だけでなく痛みのつらさから看護師に対しても暴言を吐いたりすることもあります。
穏やかな日々を過ごして欲しい、痛みや不安などから少しでも解放されて欲しい、と願っても看護師も感情が揺さぶられたり自己嫌悪から落ち込むこともあります。
しかしこのような状況下で得る多くのことは、他の科での仕事や、今後医療に関わる上で大きな経験となります。
少しの変化でも見逃さない洞察力やチーム医療に関わることで得る協調性、何よりもつらい日々を患者と共に過ごしてわかる多くのことは今後の看護に大きな影響を与えるものです。
そのため、緩和ケア病棟だからといって焦る必要はまったくありません。
しっかり患者と向き合い、優しく寄り添うことができる看護師として成長することも十分可能なのです。